2024-12-30 レポート:稽古場をひらく会:「公開稽古:新作公演読み合わせ」(藤田恭輔/かるがも団地)

12月の新作公演に向けた、「贅沢貧乏の稽古場をひらく会」の全6回のレポートを以下の皆様に執筆いただくことになりました!(敬称略)
①身体から演技の方法を考える
中島梓織/いいへんじ主宰・劇作・演出

②新作のための脚本トーク
秋山竜平/脚本家

③新作のための美術・照明ミーティング
佃直哉/かまどキッチン・ドラマトゥルク / 企画制作

④新作公演読み合わせ
石塚晴日/ぺぺぺの会・俳優・制作

⑤新作公演立ち稽古
藤田恭輔/かるがも団地・自治会長

⑥“稽古場をひらく会”のフィードバック
中島梓織/いいへんじ主宰・劇作・演出

このレポートは、「贅沢貧乏の稽古場をひらく会」がどのような時間だったのか、
お越しいただけなかった皆様にも知っていただくことを目的としています。
また、贅沢貧乏として初めての試みを、他劇団/他分野で活動されている皆さんに見ていただきレポートを書いて頂くことにより、
稽古場を観客にひらくという催しがより広がれば面白いのでは!という思いから企画しました。
第四回のレポートは、かるがも団地の藤田恭輔さんです!


開催概要:


皆様はじめまして。藤田恭輔と申します。
普段はかるがも団地という劇団で脚本を書いたり、演出をしたりしております。

7月から行われてきた「贅沢貧乏の稽古場をひらく会」も今回で五回目。
演技をする体と向き合うワークショップからはじまり、脚本やスタッフさんとのプランミーティング、読み合わせを経て、いよいよ「新作公演立ち稽古」です。

『おわるのをまっている』が、これまでよりもぐぐぐっと「演劇」として立体化されていく瞬間!会場を訪れた皆さんからも、劇場で実際に開演を待つかのような期待感が滲んでいました。「公演するみたいに緊張するね」と、山田さんも思わずぽつり。

この日は9回目の稽古。
稽古初期はワークショップを中心に実施していましたが、
「立ち稽古」のフェーズに移行し、ミザンス(役者の立ち位置や動きの段取りなど)を定めつつ、演技の内容を細かく詰めていきます。

★はじめに…… 贅沢貧乏の稽古場はどんな雰囲気なのか?★

1)稽古開始時は、全員で【ラジオ体操】をして【今日の気分をシェア】してからスタート
気分をシェアとは、例えば「今日は眠いです…」「今朝こんなことがあって気分がアガってます(下がってます)」などをそれぞれが簡単に話す、とのこと。

👉些細なことに思われるかもしれませんが、このアイスブレイクのような時間が非常に大切だなと感じました。「今日○○さんはこういう気持ち/状態なんだ」と予備情報があるだけで、互いにどう接すればよいかを考えやすくなり、円滑なコミュニケーションが図れます。

私自身も演出家として、稽古場の心理的安全性を向上させたいと日々考えていたので、非常に参考になりました◎

2)対話が盛んな稽古場
稽古を主にリードしていくのは山田さんですが、
「今の演技はどう思う?」と山田さんが(そのシーンに出ていない方も含めて)俳優の皆さんに問いかけたり、本来の配役とは異なる方が試しに演技をしてみたり、全員でフィードバックをし合いながら築いていきます。

特にミザンスが確定していない初期の立ち稽古では、全員で意見を活発に交わしながら進めていくのだそうです。

まずは冒頭のマリとヨウとのシーンから立ち稽古を開始しました。

1場:
鬱状態で休職中の派遣社員・マリ(演:綾乃彩さん)と夫のヨウ(演:薬丸翔さん)とが、同居している部屋でのシーン。ソファから起きられないマリに対し、ヨウはクリニックに行く時間であることを伝えるが、彼女は行く気がなかなか起きない。

まずは、およそ台本2-3ページ分の会話を通して一度演じた後に、山田さんがフィードバック。2回目以降はより細かく会話のブロックを区切って、繰り返し演じながら細部を調整していきます。

「(健康体であるヨウから)マリが今こういう風に言われるのはどういう気持ちなんだろう?」「(活動できないことを、ヨウから責められてはいないのに)責められている気がしちゃって、もう言い訳している感じで」

同じ台詞でも、それを発する際の姿勢や視線、声の温度感などによって人物の見え方がかなり変容します。綾乃さん・薬丸さんの体感も確認しながら、ニュアンスを整えていきます。

稽古中、特に重視していた点の一つは、人物同士の関係性をクリアにしていくこと。
マリは、思うように動けない自分を、自ら責めてしまっているのではないか?
ヨウの台詞が、マリへの嫌味のように聞こえるが、もっと親しみ・愛情を抱いて対峙してもよいのでは?など。

お互いにどんな感情を向け、普段どのようなコミュニケーションを取っているのか。
そして相手だけではなく、自分自身のことをどう捉えているのかを、少しずつ解いていきました。

そしてもう一点は、それらの関係性を示すにあたって、
俳優の体の状態・感覚にアプローチして演技を引き出していくこと。
「より毛布に沈み込みながら……」
「(相手に)刺されながらも、言い返している感じ……」
7月のひらく会のワークショップでも「内臓エモーション」という身体の状態を見つめなおすワークをしましたが、まさにここでも体の感覚を発端として、生理的に嘘が無い演技を模索していく様を垣間見ることができました。

一通りブラッシュアップを重ねていく中で、マリとヨウとの関係性に奥行きが生まれ、
二人のやり取りに血が通ってコミカル・軽快な印象が強まり、1回目に通した時とガラリと印象が変わりました。

~休憩時間~
ここで前半戦が終了し、10分の休憩。

休憩しつつ稽古を振り返る薬丸さん。
「ヨウの人間性がつかめた感じがする」
「今までは(マリと接する際に)センシティブな物事に触れる緊張感があったけど、もっとリラックスしてもいいんじゃないかと思えた」と、実りの多い時間だったようです。

普段の稽古より『ひらく会』の時の方がなんだか調子よくない…?と他メンバーからツッコまれる一幕もあり、座組の皆さんの仲の良さが改めて窺えました。

後半は、1場から2場への場面転換の動きを決めることから再開。
この転換では、マリが家からクリニックへと歩を進めるのですが、
身体表現の要素がやや強めのアプローチを試みます。

どのような体の動きであれば「だるい」状態であると受け取ってもらえるか?
参加メンバーが交代してトライしつつ、マリ役の綾乃さんの身体にマッチしているか、
という点も踏まえながら検討を重ねました。

2場:
通院中のクリニックを訪れたマリと医師(演:大竹このみさん)との会話シーン。
思うように動けない・働けないことの苦しみを訴えるマリに対し、医者は終始マイペースで、どこか信用ならない。

2場の稽古では、医師のキャラクターをどうするか?を起点に様々なパターンを試しながら、同時に場面全体のトーン・空間の使い方なども調整をしていきました。

最初のトライでは、やや戯画的で誇張が強めのキャラクターを試すものの、キャラが強すぎて観客がそれを消化することで精いっぱいになりそうな印象に。
シーン全体を通してマリに焦点が当たることに主眼を置いて、医師のキャラはつくりこみすぎないパターンで進めようという方針になりました。何度かトライを重ねながら、医師に自分の気持ちを分かってもらえないマリの歯がゆさや不安の波がより際立っていきました。

ここでもマリの不安感を表現する上で、山田さんからは「内からも外からもプレス(圧迫)されていくイメージ」と、やはり身体感覚に落とし込む形での演出指示が出ていたのが印象的でした。

夢中になってガッツリ稽古に臨んでいる内に、あっという間に終わりの時間が訪れてしまいました。

最後は、来場者の方からの感想を聞きながら、今日の稽古場をひらく会全体を振り返りました。演出指示の出し方が「仕事でも使えそうだと思った」など、演劇以外の場でも活かせる発見に繋がった方もいらっしゃいました。

一方、「(マリとヨウのシーンは、その直前のモノローグがシリアスな内容なので、)お客さんは、笑ってもよいシーンなのか、迷うかもしれない。最初にそのスタンスが分かるといいかも?」という意見も。ではどのように示していくか?という点は、今後の稽古でさらに検討していくことになりそうです。

閉じられた環境で創作活動をしていると「これでいいのかな?」と迷うタイミングが少なからず生じます。そこで今回のような、クリエーションメンバーではない人から反応・感想をいただける機会があることで、安心・自信に繋がるだけでなく、新しい視座や課題が見つかることもあります。俳優の皆さんも「エネルギーをもらった感じがする」とポジティブな感情を得られていました。

私個人としては、<観客の皆さんが創作の「過程」に参加している>ことがとにかく新鮮でした。普段私たち作り手が反応・感想をいただくのは、本番の幕が上がってから。つまり、その段階における演出・演技プランは、既に完成した「結果」をお届けしているため、大幅な変更を加えることは厳しい場合が殆どです。

ですが、こうして「過程」の段階でいただいたものは、プランに反映できる余地もかなり有しています。観客の皆さんもある種の「クリエーションメンバー」となり、『おわるのをまっている』を共に創っていく。その構造が非常に面白く、なんて豊かな時間なんだ!と感じました。

この時間を経てどんな劇が形を帯びていくのか。
本番まで残り1か月を切りましたが、その完成に立ち会える瞬間が今から待ち遠しいです。

「贅沢貧乏の稽古場をひらく会」はシアタートラムでの本番を終えた後も、12月下旬に全プログラムを通してのフィードバック会を開催します。これまでの「ひらく会」に参加いただいた方は、ぜひ足を運んでいただけますと幸いです。

執筆者:藤田恭輔

2018年に首都大学東京(現:東京都立大学)卒業後、同大学演劇サークル「劇団時計」の同期と共に、劇団かるがも団地を旗揚げ。
以降、団体主宰および全公演の脚本と演出を務める。また、2019年からは劇団外の公演への脚本提供や、演劇ワークショップのファシリテーターなどにも活動の幅を広げている。

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贅沢貧乏の稽古場をひらく会 詳細はこちら↓
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贅沢貧乏2024年12月新作公演 詳細はこちら↓
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