2024-10-10 レポート:稽古場をひらく会:「公開会議:新作のための美術・照明ミーティング」(佃直哉/かまどキッチン)

レポート:稽古場をひらく会:「公開会議:新作のための美術・照明ミーティング」(佃直哉/かまどキッチン)

12月の新作公演に向けた、「贅沢貧乏の稽古場をひらく会」の全6回のレポートを以下の皆様に執筆いただくことになりました!(敬称略)

①身体から演技の方法を考える
中島梓織/いいへんじ主宰・劇作・演出

②新作のための脚本トーク
秋山竜平/脚本家

③新作のための美術・照明ミーティング
佃直哉/かまどキッチン・ドラマトゥルク / 企画制作

④新作公演読み合わせ
石塚晴日/ぺぺぺの会・俳優・制作

⑤新作公演立ち稽古
藤田恭輔/かるがも団地・自治会長

⑥“稽古場をひらく会”のフィードバック
中島梓織/いいへんじ主宰・劇作・演出

このレポートは、「贅沢貧乏の稽古場をひらく会」がどのような時間だったのか、
お越しいただけなかった皆様にも知っていただくことを目的としています。
また、贅沢貧乏として初めての試みを、他劇団/他分野で活動されている皆さんに見ていただきレポートを書いて頂くことにより、
稽古場を観客にひらくという催しがより広がれば面白いのでは!という思いから企画しました。
第三回のレポートは、かまどキッチンの佃直哉さんです!


開催概要:


レポート:稽古場をひらく会:「公開会議:新作のための美術・照明ミーティング」(佃直哉/かまどキッチン)

■はじめに
お世話になります。主に演劇に企画制作で携わっている佃直哉と申します。自分が所属するかまどキッチンという劇団では、主宰/プロデュース/企画制作として活動しています。

本テキストは「贅沢貧乏の稽古場をひらく会」の三回目、「公開会議:新作のための美術・照明ミーティング」を見学したレポートになります。参加ゲストは、12月に上演を予定する贅沢貧乏の新作『おわるのをまっている』にスタッフとして参加されている舞台美術家の中村友美さん、舞台照明家の吉田一弥さん、舞台監督の湯山千景さんの三名です。

レポートはレポートなのですが、「ただ単に事実の報告を行うより、私という個人の考えが見られるものを見せてもらえれば」というお話を事前にいただいたこともあり、ちょっぴり私見多めで書かせていただきます。お付き合いいただければ幸いです。

■打ち合わせをひらくことについて
山田さんの「スタッフ打ち合わせを外から見ることってあまりない。見ることもないし、見せることはもっとない。今日はせっかくなのでガチミーティングを臨場感たっぷりでお届けできれば」という話から公開ミーティングははじまり、まず、ゲストの皆さんの紹介とそれぞれから舞台美術、舞台照明、舞台監督の仕事に関する向き合い方やレクチャーがありました。

中村さんはパワーポイントで作成した資料を使い、舞台美術を志した経緯や影響を受けた美術家の説明から、舞台美術の業務についてや「舞台美術はパフォーマンス空間においては、オブジェクトと見立てに関わるものなので、デザインを通じて観客とどのように関係性を繋いでいくかを考えながら仕事をしている」とお話ししてくれました。

吉田さんは劇場空間の照明として「一番大きな役割は見えるようにすること。そして、見えるという状態から、見せるに向けて演出家・スタッフ・出演者と共同作業していくこと」と語り、カメラワークで視界を限定できる映像とは異なる演劇独自の照明の役割として「自由な状態にある観客の視線の誘導」を挙げられていました。

湯山さんは話すのが得意ではないうえに水面下で色々やる仕事なのでざっくり説明するのは難しいと前置きしつつも「舞台監督についてネットで調べてきました」としっかりひと笑い取ったうえで、舞台監督の多岐にわたる業務(資料チェック、スタッフ編成、公演スケジューリング、舞台機構のアイデアの精査、稽古場、場当たり、本番の進行、配車、消防周りの申請……など。団体との関わり方によって業務の種類や量も変わるという話です)と、自身の考え「舞台監督は、テクニシャンを軸にしつつ、アーティストとアドミニストレーターの役割も横断しながら仕事をするもの」とお話ししてくれました。

・アーティスト(+デザイナー)
出演者や演奏者などだけでなく、演出家、ドラマトゥルグ、舞台美術家、舞台照明・舞台音響・衣裳の各デザイナーなどをいう。

・テクニシャン
舞台技術者と総称される職能。技術監督、舞台機構・舞台照明・舞台音響などのオペレーター、劇場技術管理者、大道具製作、そして舞台監督なども含む。

・アドミニストレーター
舞台制作業務を司る業務を中心に担う職能で、プロデューサーや制作担当だけではなく、広報・宣伝係、教育・普及係、票券係などもその一翼を担う。

制作基礎知識シリーズVol.24 舞台監督の仕事① 舞台づくりを支える人々と舞台監督の位置づけ”より

ゲストの三名は贅沢貧乏の過去公演『わかろうとはおもっているけど』のパリ公演(2022年 フェスティバル・ドートンヌ公式プログラム)にスタッフとして参加した方々で、紹介の中で挟まれるパリ公演でのトラブルのエピソードやそれを乗り越えた経験が今回の企画を成立させているのだと思え、印象深かったです。

冒頭で山田さんが仰ったようにスタッフミーティングを公に行うことはあまり一般的ではありません。それはなぜか。私見ですが、作品のコアな部分を露出させてしまうことで観劇時の体験価値を損ねてしまう可能性があること、新作のクリエーションにおいては(関係者がいくら気を揉んでいようと)スタッフや出演者との協働が万全の状態でなされるとは限らない創作の難しさがあることが理由であるように思います。

上述の照明の話ではないですが、幕が上がっているときに光が当てられるものは基本的には観客に見せられる、見せたいもののはずです。ですが内幕は必ずしもそうでなく、観客に見せてしまえば、そこにカメラを向けた途端何かが破綻してしまう。そういう団体も(ない方がいいですが)あります。そんな危うさが漂う業界で、あえてこのような形で場を開くことに、私は「誠実さ」と「信頼」を感じました。

作品が良ければプロセスなんて関係ないという言説に屈さず、内幕を開くことで現場をブラックボックス化させない。密室で創作を煮詰めることで魔術化させず、プロ同士のオープンな仕事であることを見せる。それは作品の面白さ以上に、リテラシーを求める(本来みんな求めるべきなんですけど)観客に安心感を与える。見たことを後で後悔させない。そういった「誠実さ」。そして、タネも仕掛けの一部を教えたとしても、「このスタッフ(山田さん曰く、戦友)なら、その予想や現段階のプランニングを飛び越えたマジックを見せることができる」という過去公演の経験に基づいた「信頼」がある。

皆さんの話を聞きながら、羨ましいなあ。私も、そう在りたいものだぁと思っていました。

■変化を面白がるカッコいいひとたち
スタッフ業務についてのレクチャーが終わり、執筆中の戯曲をモニターに映して参照しながら、公開ミーティングがはじまりました。

山田さんは舞台美術のプランについて、戯曲を書き進めながら、美術と演出の相互作用を意識しながら決めていくことがベストだという考えを持たれていて、そのため、今回のように執筆中の戯曲をもとに打ち合わせをする形式を取っているそうです。

パートナーの仕事の都合で海外のホテルに滞在することになったうつ病を抱える女性マリが、ホテルで変なことに遭遇し……というあらすじの説明の後、劇団員の大竹このみさんと田島ゆみかさんとト書きを読む山田さんで読み合わせを行いつつ、スタッフの方々が冒頭で受けたイメージを話し合う。そんなとき登場したのが
中村友美さんが今日のために用意してきてくれた模型です!!(会場も大盛り上がりです) 

それからは模型を見ながら、より本格的な打ち合わせに入ります。山田さんは、新作では空間がマリの意思に反してズレていき、ものがトランスフォームしていく世界を作りたいと話し、中村さんはうつ病によって起こってしまう自己認知や他者認知のずれを視覚化する美術にできればとパネルの変化によって穴やズレが印象的に見えるイメージボードを提示します。

山田さんの冒頭シーン執筆時の空間イメージは、素舞台ではじまりソファだけが移動する形で出てきて、そこに横たわっているマリは、自分では動くこともできずにいる。というイメージだったそうですが、中村さんの提案を受けて、ソファや美術はある状態で、照明の電球が少しずつ上がっていき、上演空間が見え始める……というはじまりが良いかもとなります。

自分が書いていたものを読んで、他の人が別のイメージをして、出てきたアイデアを共有することで見えるものが変わっていく。「自分たちが発想している姿を見られるのは恥ずかしい。ヤバい」と評しつつも、それぞれが出すアイデアを面白がりながらミーティングは続いていきます。

ミーティング前半の主な話題となったのがト書きに書かれていた「穴」についてです。

中村さんは「穴」と「孔」の違いについてを指摘し、テキストでは前者のくぼみの「穴」のイメージだったけれど、気孔や生体的な「孔」があっても面白いのかもしれないと「孔」のイメージを取り入れたアイデアを話します。

それを聞いた山田さんは、「観客席から見たら照明が照らすことで舞台上が穴の中のように見えると面白いのかもしれない。舞台上の穴は孔の中の穴というか」とテキストにはなかった新たなイメージを着想します。すると吉田さんが突然模型をライトで照らし出し、明かりで穴を作ろうとします。みんなで模型を穴のイメージを実現すべくわちゃわちゃしながら、「これがミーティングです!」と笑いをとる場面も。

そして、ここまで出てきた美術のアイデアを実践するならどうするかという検討のフェーズに入り、吉田さん、湯山さんがそれぞれの見地から提案を行います。湯山さんが「機械で照明を巻き取って、下から上に動く明かりを作ることは可能」と話せば、吉田さんが「ものがトランスフォームしている、生物的にしたいなら、人が巻き取った方がより良い形で見えるかもしれない」と提案する。

カジュアルな思いつきを含めて、出てきたアイデアを面白がりながら実現可能かを考えていくゲストの三名を山田さんは「カッコいいでしょう!」と誇ってみせます。意識するでもなく自然に、ポジティブかつ建設的なブレーンストーミングが展開されていました。

■蓄積してきた表現から
休憩を挟んで、「ものが生き物みたいに見えてほしい」という話題から発展する形で、別シーンのミーティングがはじまりました。マリとヨウの部屋での会話から空間がクリニックに変わっていくシーンのト書き「部屋とヨウが遠ざかっていく」を掘り下げる皆さん。

マリの内面の変化や認知の歪みを視覚化するため「ときにからかったり、嘲笑したりするように、ものに人格があるように見せたい」を話す中で、さまざまな「既存作への言及」が出てきます。

アーティストたちが既存作のどこを良いと思って、何を取り入れるのかを聞く機会はほとんどないほか、団体が持つ風土というか文化的な文脈の共有度合いによって、出てくる作品のジャンルも変わるため(自分の劇団ではゲームの演出を共通言語として使うことが多いです)、話題に出てくる作品やアーティストの名前を興味深く聞いていました。

形が歪むマテリアルの象徴として『おばけのバーバパパ』、実際にものの形を歪める表現があった舞台作品としてインバル・ピントが演出を手がけた『未来少年コナン』、『リビングルーム』、ものを動かす表現の技術的な解説としてジャミロクワイ『virtual insanity』、山田さんが色使いや演出で影響を受けた映画監督ウェス・アンダーソン(代表作に『グランド・ブタペスト・ホテル』ほか)などの名前が出てきました。

知っている作品の話から、新たな作品のアイデアが組み上げられるその瞬間に同席していると「それ俺も知ってる!混ぜて、混ぜて!」ってつい友達感覚で手を上げたくなるオタクな自分がいて、少しだけ皆さんとの距離が近くなったようにも感じられて、この「相手の趣向を知ることで生まれる親しみ」もひらくことの一つの価値なのかなと思っていました。

本題に戻ると、ウェス・アンダーソンの話から発展して、本作の舞台となるホテルを色使いや衣装で、「アジアっぽい、けれどどこかわからない国」にしたいという山田さんの要望に吉田さんが提案したシンガポールのプラナカン建築がヒット。パステルカラーの明るい色彩が混ざり合ってできたプラナカン建築は見ているだけで楽しい感じです。この色彩を知っておくことで、それが作品に実際にどう反映されるのか(どの程度踏襲し、どの程度逸らすか)を見ることもまた一つの楽しみかもしれません。

■譲れないのは、人権侵害しないことくらい
最後に20分程度の質疑応答の時間がありました。ここでは質問とその回答を一つだけご紹介します。

Q
皆さんの一番のゴールは最高の舞台を作ることだと思うのですが、皆さんがそれぞれの役割の中でここだけは譲れないという大事なことはありますか?

A
吉田さん:どこかにはあると思いますが、自分はアーティストであることよりも技術者であることにアイデンティティを持っているので、譲れないことはあまりないです。

中村さん:誰かとの対話なしにやれない仕事なので、あまり考えたことはなかったです。折れる折れないの折り合いの話になりがちだけれど、お互いが納得できるところまで、やりとりをする。言われたことを無視しない。ということは大切にしています。

湯山さん:尊重し合うことに関しては譲れないです。なので、人を貶すとかは許せないですね。作品を作る上で関わるのは人なので、譲れないのはそこです。

山田さん:逆に譲れないのは、人権侵害しないことくらい。

皆さんの答えは、最高の舞台を作るには、他者を尊重することが前提であり、他者の人権を踏みにじってまで作り上げたものに、最高と呼べる価値などない。ということなのだと私は思います。私自身が作品の芸術的な完成度や面白さがすべてにおいて優先するという立場を取っていないので、近い考えを持つ人たちへの共感が先にあることは間違いないのですが、その贔屓目を抜きにしても、「譲れないのは人権侵害しないこと」という力強い答えを価値観や信念としてチームが共有していることに感銘を覚えました。

私自身の興味関心の問題で、創作の姿勢や企画の在り方に割く分量がかなり多くなってしまい、ひらく会のレポートとしてふさわしいものと言えるかは正直わかりません。ただ、どのように作られているかを知るにあたって、創作の過程のみならず、創作における信念まで知りたいと思う方もいる。などと考えながらここまで書かせていただきました。贅沢貧乏による豊かな試みと新作の上演を、皆さんにも目撃していただきたいと心から思います。
私も『おわるのをまっている』が、はじまるのを(楽しみに)まっています。なんて。

撮影:高田亜美

執筆者:佃直哉

劇団かまどキッチン主宰・企画制作。コンテンポラリーダンス企画ユニットオドリバ企画。など。主に演劇・コンテンポラリーダンスの分野で企画・プロデュースとして活動。近年は企画協力として、個人ユニットの立ち上げや劇団や公演企画のコンセプト設計をお手伝いする仕事が多いです。


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