「稽古場をひらくにあたって」
贅沢貧乏は今年12月にシアタートラムで上演される新作公演のクリエーション過程を公開する「稽古場をひらく会」を企画することにしました。
ここでは、なぜ稽古場を公開しようと思ったのかについて書きたいと思います。
演劇は、観客の前で上演する公演初日に向けて、長い時間をかけて準備をしていきます。
全ては本番のため、いい上演をするために、日々の稽古やスタッフとのミーティングを積み重ねていきます。
演劇作品を上演するという過程において「本番の日」というのは本当に一瞬の、最後の最後の、わずかな時間です。
観客にその本番を楽しんでもらうことは、それまでの全ての行為の目的であり、とても重要なことであるのですが、一方で、実はその準備の過程にもとても面白い思考回路やコミュニケーションが生まれていると思っています。
そこで、本番までの間、創作の途中経過を公開してみることにしました。
観客の皆さんには本番を観に来ていただき、楽しんでもらいたいということは大前提としてあるのですが、もしかしたらこの創作過程で起きていることを一緒に楽しんでくださる方もいるかもしれない、と思ったのです。
演劇ファンの方々の中には、本番を観るだけでは飽きたらず、創作過程に並走し、どのようにつくられているかを目撃した上で本番を楽しみたいという方もいるかもしれない。
同じく演劇をつくる方々、また、別の媒体でものづくりをしている方々が、創作プロセスを見ることで発見があり、自身の創作に何かを生かし、良い影響を与え合えるかもしれない。
何度も言うようですが、本番を観ていただくだけでも楽しめる作品をもちろん作ります。
それとは別で、さらに異なる深度で12月の新作公演を楽しんでもらえるコースと思ってもらってもいいのかもしれません。
そして、この創作プロセスを公開するということは私たち劇団の作品づくりにとって良い影響があると確信しています。
本番で初めて作品を観ていただくのではなく、もっと手前の段階のワークショップや本読み、スタッフミーティングや稽古を見ていただき、その段階での感想を伺いディスカッションをすることで、より多くの人が創作過程に関わることになり、より客観性を持ち、より多様な意見を取り入れながら作品づくりができるようになると思っています。
これはきっと、絶対に、私たちの創作にとってとても良いことになると思います。
贅沢貧乏はこれまでも、一軒家やアパートで創作・公演をしていたときの資金繰りについて話す公開会議を開いたり、コロナ禍では「演劇をすることのリハビリテーション」と称して稽古場を公開したり、神保町PARAでのアーティストインレジデンス中には、演技方法の研究結果をシェアするレクチャーパフォーマンスを行うなど、思考過程や、上演未満のものを公開するということをしてきました。
そのどれもが劇団にとって良い影響を与え、より健全で、楽しく、思慮深く創作をすることにつながっていたと思います。
ここまですこし控えめな言い方をしてきました。
ここで、もうすこし踏み込んだこと、というか、本音を言ってしまうと、実は創作過程の時間にはとても「価値がある」と思っています。
もっと言うと、それは「お金を払って見る価値」です。
ちょっとどきどきしながら言っていますが、でも本当にそうだと思います。
創作過程で交わされている会話、思考の変化は、上演を観ることとは別の「面白さ」があります。
基本的に演劇は創作過程ではずっとお金が出続け赤字の状態で進んでいきます。
公演期間のチケット代で一気に収入を得るので、そこまでは基本的に収益はありません。
1年前、長いと2年以上前から準備を始めますが、その間ずっと収益はありません。
様々な助成金も基本的には赤字補填の考え方なので、公演終了後に収支報告をして、赤字を補填していただく形で助成金を得ます。
今回の稽古場をひらく会はほとんどすべての回で参加費をいただく予定です。
この試みは、先に書いたようにより良い創作のための実験でもありますが、
公開稽古で参加費をいただくことで、今まで存在しなかった稽古期間に収益を得るという、新たな演劇の収益化の実験でもあります。
公演が終わったあとには、この公開稽古に1回でも参加していただいた方を対象に、この試みがどのようなメリット・デメリットをもたらしたのかフィードバックする公開会議も行う予定です(これは無料です!)
劇団の持続可能性を高めるために、健康的な創作活動を続けていくために、新たな実験をしてみます。
色々と書いてしまいましたが、
贅沢貧乏のこと気になるしちょっと覗いてみようかなという方、
俳優が気になる方、脚本のつくり方が気になる方、演出を見てみたい方、
スタッフミーティングってどんなやりとりしてるのか興味がある方、本番を観に行くか検討したい方、どんな楽しみ方でも大丈夫です。
とても気軽に、遊びに来ていただけたらうれしいです!
贅沢貧乏一同
写真:内田颯太、贅沢貧乏